ICLSコースガイドブック 改訂第5版 前版からの変更点
ICLS公式ガイドブックがついに(ようやく?)ガイドライン2020に対応し、羊土社から出版されました。
従来の第4版と比較してみると、大きな変更はありませんがいくつか更新されている部分がありましたのでご紹介します。
BLSにおける安全確認と標準予防策
BLSアルゴリズムの最初に,周囲の安全確認が明記されました。同時に標準予防策を行うことも本文中に記載されています。
(5版 p.22)
新型コロナウイルスパンデミックの影響で感染防護への意識が高まったことの反映と思われます。これまでのICLSでもマスクと手袋を装着してBLSに当たるよう指導したと思いますので,大きな影響はないでしょう。
呼吸と脈の確認における気道確保
呼吸と脈の確認の際,気道確保を行う必要は無いことが明記されました。一方,確認の際は胸だけでなく腹部の動きにも注目するよう記載されています。
(5版 p.22)
JRC蘇生ガイドライン2020でもBLSアルゴリズムにおける心停止の判断に気道確保は記載されなくなっていますので,それに整合させたものと思われます。気道確保によってそれまで無かった正常呼吸が出現する——といった状況は例えば心停止に至っていない意識障害に伴う舌根沈下等が考えられますが,そうした場合は吸気努力により胸腹部の動きが見られるはずなのでそれを見て気道確保を行えば良く,心停止の判断に気道確保は必須ではないということなのでしょう。それよりは迅速に心停止の有無を判断し,胸骨圧迫までの時間を短縮する方がメリットが大きいということになります。ただし同ガイドラインでも「心停止判断のための呼吸観察で気道確保を行うことが呼吸停止の判断にどのような影響を与えるか」は「今後の課題」となっていることには留意する必要があります。
当院のICLSでは従来,呼吸と脈の確認の際には頭部後屈顎先挙上法での気道確保を行うよう指導していましたので,今後この部分は指導内容を変更します。
3つの“か”から4つの“か”に
心停止の原因検索の既往法が「3つの“か”」から「4つの“か”」になりました。
(5版 p.29)
「からだ」「カルテ」「かぞく」に加え,「簡便な検査(血ガス,POCUS,ポータブルX線)」が追加されました。第4版でも「かんたんな検査」を加えて「3(4)つの“か”」となっていたので大きな変更ではありませんが,今後コース内での指導では「4つの“か”」で指導していきます。
気道管理時のデバイス
気道管理におけるシートタイプの感染防護具,ジャクソンリースの記載が削除されました。
院内想定であり使用機会が少ないこと,新型コロナウイルス感染症の影響もあり,シートタイプの感染防護具については記載が削除されました。またジャクソンリース回路も適切な使用が難しいことから扱わないことになったものと思われます。
オートショックAED
オートショックAEDについての記載がコラムで追加されました。
(5版 p.64)
ボタンを押さなくてもカウントダウン後に自動で除細動を行うAEDが昨年から認可されましたので,それに対応した改訂です。現状,当院に設置されているAEDにオートショックタイプのものはありませんが,今後一般に普及が見込まれますのでBLS指導の際は受講生に伝えて参ります。
自己心拍再開後の目標SpO2値
自己心拍再開(ROSC)後の酸素投与について,目標SpO2値が93〜99%から92〜98%へ変更されました。
(5版 p.68)
近年,ROSC後の集中治療における高酸素血症の弊害についての報告が続いています。総じてエビデンスレベルは低いものの,JRC蘇生ガイドライン2020でも「心停止後のROSCした成人で高酸素症を回避する」ことを弱い推奨としていますので,それに対応した改訂と考えます。実際のコース内での指導ではROSC後の管理まではあまり踏み込まないので大きな影響はありませんが,インストラクターの皆さんは背景知識として知っておく必要があります。
波形評価はパルスチェックを行いながら
モニター除細動器で心電図波形を評価する際,頸動脈を触知しながら行うこととされました。
(5版 p.95)
従来,まず心電図波形の評価を行い(リズムチェック),VTやPEAなど脈が触れる可能性のある波形を認めた際には頸動脈触知を行う(パルスチェック)という2段階の評価を標準的な方法として指導していました。旧4版でもコラムで「“Treat the patient, not the monitor”という考え方に準じ,心電図評価を行う際には常にパルスチェックを行うという方法も理にかなっている。どちらの考え方に基づいて救命処置を行うかは,蘇生チームのリーダーの判断によるが,いずれにせよ,脈拍の確認にこだわって胸骨圧迫中断時間が長くなることがないように注意が必要である(4版 p.102)」とされていましたが,2段階での評価により胸骨圧迫中断時間が長くなるデメリットの方を重視してこのように記載が変更されたものと考えます。
当院のICLSでも今後は心電図波形を評価する際,頸動脈触知を同時に行うこと,ただしその際に頸動脈触知にこだわるあまり胸骨圧迫中断時間が長くならないよう注意することを指導していく方針です。